「鬼怒川」 有吉佐和子

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HOME書籍_小説・戯曲・文学「鬼怒川」 有吉佐和子

2007/07/17 Tue

なんともやるせない小説です。

一人の女性の一生を描いていますが、
対する男のほうは、夫、息子、孫と3代に渡って描かれます。

その3人ともが、戦争(あるいは安保闘争といった時代の流れ)によって、精神的に病んでしまいます。
そんな彼らが、再び輝き始めるのが、傍目から見れば気がふれたかとすら思える、伝説の結城家の埋蔵金を発掘することによって。

孫の三郎の言葉を引用します。

「人間は一度死ぬとよ、あとはやけに美しいものが好きになるんだ。お爺も、お父も、それだったのでねべか」
「埋蔵金は浦島太郎の竜宮城なんだ。桃太郎なら鬼ヶ島だ。裸の王様が着たがった目に見えねえ織物は、結城紬よりファンタスティックじゃないか。お爺も、お父も、それに熱中したんだ。俺ははっきりと理解したのよ。金堀りは恥でも何でもないんだ。日本の現状で資本主義や米帝の侵略と戦うより、もっと純粋に理想的な闘争なんだ。ユートピアを探求することだからね。」

そんなユートピアに取り付かれた男達に対して、主人公のチヨは現実的な生活者としての女の目線から見つめていきます。

初めは、まだうら若き妻として。
2回目は、強き母として。
3回目は、耄碌した老婆として。

以降は追記に記載します。記事下部の【続きを読む】をクリックしてください。


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耄碌した老婆として迎えた、孫の三郎による3回目の埋蔵金発掘のラストが、なんともやるせない・・・チヨは(意図せずも)人生最後の仕事として、この男達のユートピアの幕引きを行う役割を演じることになります。

ストーリーとしては本当にやるせないのですが、戦争に子供を送り出す田舎の母達の、その純粋な子供達への思いは、強く感動させられます。
特に、主人公のチヨが、息子の三吉の戦死の電報が届くもそれを信じず、時には自分の娘や弟家族達とすら反発し、一人ぼっちになりながらも頑なに息子の帰りを待ち続けていく姿が感動的です。

それは偏屈ですらあるのですが、お鯉様に「一切の魚を食べない」という願掛けを行い、それを忠実に守っているのだから、絶対に息子は生きて帰って来るのだ、また、名前に付けた「三」の字によって生き延びることができるのだ、と盲目的に信じる純粋な姿には胸を打たれます。

この母の感情を随所に強く描いている点に、この作者、有吉佐和子は母なのだなぁ、と実感させられます。


さて、タイトルの「鬼怒川」ですが、鬼怒川と聞くと、皆さんは何を思い浮かべるでしょうか?

鬼怒川温泉というのが、一番一般的かなぁ、と思ったりします。
でもこの小説は、鬼怒川温泉のある鬼怒川源流の山間部とは何の関係もありません。

この物語の舞台は、鬼怒川が平野部にまでずっと下った地域、紬の里、結城です。
ここで言う結城とは、広義の結城で、現在の地理上の地域としては、茨城県結城市と栃木県小山市の鬼怒川沿いの地域が中心になります。
主人公の生地は、現在の茨城県結城市絹川地区の小森、嫁いだ先が現在の栃木県小山市絹地区の中島で、基本的にここでの紬織りを物語の中心としています。

鬼怒川、は、この川がいつも起こす大洪水を「鬼が怒る」と例えたことによる名前なのですが、本来は絹川と表記していたというように、この地域における織物産業を名の由来としています。鬼怒川といば、温泉、だけではないのですね。絹川というのは、上記のように今でも結城市の地名に残っています。

随所に、結城紬についての説明などがでてきますが、或る程度結城紬についての事前知識があったほうが、読み易いと思います。
⇒結城紬の工程などが載っているページ

主人公チヨは織りの名手であり、結城紬の柄をどんどんと細かく複雑なものにしていき、その価値を高めていきます。
蚊絣から、亀甲十字絣へ、やがて一反に188もの亀甲を入れる模様へなど。

物語の時代は、日露戦争の終結後から始まり、安保闘争の頃をもって終わりとなります。

主人公チヨの夫、三平は、日露戦争二○三高地の激戦の生き残りで、村の英雄という扱いを受けています。
この紬の里では、女性の価値は、織物の腕によって決まります。よって、その日露戦争の英雄の嫁として、織物の腕の良かったチヨが選ばれて結婚することになります。
(日露戦争、二○三高地の戦いなどについては、司馬遼太郎の「坂の上の雲」が詳しいです。)
⇒司馬遼太郎「坂の上の雲」の記事を見る。

しかし、その夫は、戦争による精神の疲弊から生気を失い、ろくに働くことのできない生活力のない男になっています。
そこに現れた戦友、右足首の無い男、重田。
この男の登場によって、物語は悲惨な方向へ動き出します。
この右足首の無い男は最後までチヨにとって不幸の象徴でした。

この男の遺したものから、結城家の埋蔵金伝説のことを知った三平は、人が変わったように生気を取り戻し、一人で埋蔵金堀を行いますが、あっけなく事故で死亡。


その息子三吉は、太平洋戦争に出征し、一度は戦死が伝えられるものの、生きて戻ってきますが、やはり生気を失っています。
それが、偶然見つけた重田の遺品から、やはり埋蔵金伝説の虜になり、その途中腹膜炎とマラリアを併発して死亡します。


孫の三郎は、村の将来を期待され東京の大学に出されますが、安保闘争の学生運動の幹部になり、暴行を受けて大怪我を負って村に戻ることになります。そして、祖父、父同様に埋蔵金伝説の虜になってしまいます。

この三人の男達の胸中を見事に表現したのが、最初の三郎の台詞なわけです。

そんな男達3代に対して、チヨは・・・


結城家の埋蔵金伝説は、日本三大埋蔵金と言われ、その中でも、信憑性が高いと言われており、これまで多くの人が実際に発掘を行ってきましたが、当然、発掘されていません。
どうなんでしょうね。まぁ、無いんじゃないでしょうか。。。


有吉佐和子の描く、凄絶な女の一生。息子・孫への純粋な愛と、その愛が次第にチヨを変貌させていく様、そして哀れな最後・・・。
やるせない話ですが、是非読んでみて欲しいと思います。


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2007/07/28(土) 17:18:42 | 小説耽読倶楽部
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